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DICOM規格が使われる医療機器とは?標準通信規格の基本を解説

医療システム

DICOM規格が使われる医療機器とは?標準通信規格の基本を解説

DICOM規格が使われる医療機器とは?標準通信規格の基本を解説

「医療現場を支える高度なITソリューションと組込み開発」をテーマに、アイ・エス・ビー(以下、ISB)は長年にわたり医療分野におけるシステム開発やソフトウェア開発に取り組んできました。

医療情報システムや病院向けシステム開発、さらには医療機器開発といった幅広い分野で豊富な実績を積み重ねています。特に、画像診断装置のソフトウェア開発においては40年以上の歴史を持ち、CT、MRI、超音波診断装置など、診断の根幹を担う機器に深く関与してきました。

この過程で培ったノウハウの中でも、DICOM規格への知見は群を抜いています。DICOMは医療画像の標準規格であり、世界中の医療機器やシステムをつなぐための"共通言語"といえる存在です。本記事では、このDICOM規格について基礎から解説しつつ、ISBがどのようにこの分野で貢献しているのかをご紹介いたします。


DICOM規格とは?

DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)規格とは、医用画像データのフォーマットや、医療機器間の通信プロトコルを定義した国際標準規格です。

CTやMRI、X線撮影装置、超音波診断装置など、あらゆる医用画像機器で撮影されたデータは、単純なJPEGやPNGといった画像ファイルでは扱えません。医療現場では、患者情報や検査情報とセットで管理する必要があり、診断精度を維持するための高解像度・高ビット深度のデータも必要です。そのため、汎用的な画像形式ではなく、専用の標準規格が不可欠となりました。

DICOMは、米国放射線学会(ACR)と米国電気電子学会(IEEE)の協力のもと開発され、現在では医用画像の世界共通規格として、ほぼすべての医療機器で採用されています。


DICOMが生まれた背景

1970年代、医療現場にデジタル技術が導入されはじめ、画像診断装置もアナログからデジタルへと移行しつつありました。しかし、当時はメーカーごとに独自の画像フォーマットを採用しており、次のような課題がありました。

■相互運用性の欠如
 A社のCTで撮影した画像が、B社のPACS(Picture Archiving and Communication System:医用画像保管通信システム)に保存できない。

医師の負担増
 異なる装置ごとに専用ビューアを使い分けなければならず、診断効率が悪化。

医療機関間のデータ共有が困難
 患者が他院に転院した場合、画像データを円滑に引き継ぐことが難しかった。

この状況を解決するために、共通の画像フォーマットと通信規格として誕生したのがDICOMです。1993年に正式に公開されて以来、現在に至るまで改訂を重ね、最新の医療現場に対応し続けています。


DICOMの国際標準規格

DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)は、CTやMRIなどの医療機器で撮影された画像と、それに付随する患者情報や検査条件などを合わせて扱うための国際標準規格です。この規格により、医療画像データとその関連情報が統一された形式で扱われるため、特定のベンダーに依存しない柔軟なシステム構築が可能になります。

DICOM規格が使われる主な医療機器には、以下のようなものがあります。

画像診断装置
これらの機器は、DICOM規格で画像データを出力します。

CT(コンピュータ断層撮影装置):身体の断層画像を撮影します。
MRI(磁気共鳴画像撮影装置):磁気を利用して体の内部構造を画像化します。
超音波診断装置(エコー):超音波を用いて臓器や組織のリアルタイム画像を生成します。
CR・DR(デジタルX線撮影装置):X線を利用してデジタル画像を撮影します。
内視鏡:体腔内の画像を直接観察・撮影します。
PET(陽電子放射断層撮影装置):放射性薬剤を用いて臓器の機能情報を画像化します。
核医学装置:放射性同位元素を用いて生理学的機能や病態を評価する画像を生成します。

■画像管理システム
DICOM画像データを保管・管理するためのシステムです。

PACS(Picture Archiving and Communication System):医用画像をデジタルで保存し、管理・配信するシステムです。

■画像表示・解析システム
PACSに保存された画像を表示・解析するためのシステムです。

DICOMビューア:DICOM画像を閲覧するためのソフトウェアです。
画像診断ワークステーション:医師が画像を詳細に解析するための高度なソフトウェアです。


DICOMのサービスクラス定義

DICOM規格では、医療機器やシステム間で行われる通信の機能や目的を「サービスクラス」として定義しています。
これは、画像データを保存する、サーバーから画像を検索して取得する、といった特定の操作のルールを定めたものです。
機器やシステムがどのサービスクラスに対応しているかによって、実行可能な機能が決まります。
代表的なサービスクラスを組み合わせることで、検査の予約から撮影、画像保管、診断までの一連のワークフローが実現されます。


画像ストレージサービスの役割

画像ストレージサービスは、DICOM規格における最も基本的な機能の一つです。
このサービスは、CTやMRIなどのモダリティで生成された医用画像を、PACSのようなサーバーへネットワークを通じて転送し、保管する役割を担います。
単に画像ファイルを送るだけでなく、患者ID、検査日、撮影条件といった関連情報もDICOMファイル内にカプセル化して送信するため、データの一貫性が保たれます。
これにより、保管された画像は後から正確な情報と共に参照することが可能となり、医療情報管理の基盤を形成します。


クエリ/取得サービスの機能

クエリ取得サービス(Query/Retrieve Service Class)は、サーバーに保管されている膨大な医用画像データの中から、必要な情報を効率的に検索し、手元の端末(ビューアなど)に転送するための機能を提供します。
利用者は患者ID、氏名、検査日、検査の種類(モダリティ)などを検索条件として指定し、合致する検査リストを取得できます。
その後、リストから特定の検査を選択して画像データを取得(Retrieve)する流れが一般的です。
このサービスにより、医師は診察中に過去の画像などを迅速に呼び出して比較読影することができ、診断業務の効率化と質の向上に貢献します。


モダリティ作業リストサービスの機能

モダリティ作業リストサービス(ModalityWorklistManagementService)は、検査業務の効率化とヒューマンエラーの防止に大きく寄与する機能です。
このサービスは、病院情報システム(HIS)や放射線科情報システム(RIS)に登録された検査予約情報を、CTやMRIといったモダリティに作業リストとして提供します。
これにより、放射線技師は検査の都度、患者情報を手動で入力する必要がなくなり、リストから対象の患者を選択するだけで済みます。
入力ミスによる患者の取り違えといったインシデントを防ぎ、検査業務の安全性と正確性を高める上で不可欠な仕組みです。



DICOM規格の貢献

DICOM規格は、医療現場のさまざまな場面で活用されており、今や医療情報システムの根幹を支える技術となっています。
特に放射線科における画像の一元管理から、病院全体の情報システムとのシームレスな連携、さらには異なるメーカーの医療機器間でのデータ互換性の確保まで、その応用範囲は多岐にわたります。
これらの利用例を通じて、DICOMが医療の質と効率の向上にどのように貢献しているかを確認できます。


放射線科での診断精度向上

放射線科は、DICOM規格が最も広く活用されている診療科の一つです。
CT、MRI、X線撮影装置といった多種多様なモダリティから日々生成される大量の画像データは、すべてDICOM形式でPACS(医用画像管理システム)に集約されます。
これにより、撮影した機器や場所に関わらず、すべての画像をサーバーで一元管理することが可能になります。
読影医は専用のビューアを用いて、院内のどこからでも必要な画像にアクセスし、効率的に診断レポートを作成できます。
また、過去の画像との比較読影も容易になるため、病状の経過観察や診断精度の向上に役立っています。


病院情報システム(HIS)との連携によるサービス向上

DICOM規格の役割は、画像データの扱いに留まりません。
病院全体の基幹システムである病院情報システム(HIS)や放射線科情報システム(RIS)との連携においても、その真価を発揮します。
例えば、HISで発行された検査オーダ情報を基に、DICOMのモダリティ作業リストが作成され、撮影装置へ自動的に送信されます。
検査完了後には、撮影された画像へのリンク情報が電子カルテに紐付けられ、医師はカルテ画面からワンクリックで画像を参照できるようになります。
このような連携により、診療情報と画像情報が統合され、より質の高い医療サービスの提供が実現します。


医療機器の互換性確保

DICOM規格がもたらす最大の恩恵の一つは、異なるメーカーの医療機器間におけるデータの互換性を確保することです。
この規格が策定される以前は、特定のメーカーの装置で撮影した画像は、同社のシステムでしか表示・管理できないという制約が一般的でした。
しかし、DICOMが画像フォーマットと通信プロトコルを標準化したことにより、A社のCTで撮影した画像をB社のPACSに保存し、C社のビューアで表示するといった、マルチベンダー環境での自由なシステム構築が可能になりました。
これにより、医療機関は特定のメーカーに縛られることなく、目的に応じて最適な機器を選択できます。



DICOMのメリットと課題

DICOM規格は、医療画像情報の標準化を通じて、医療現場に多大なメリットをもたらしました。
特に、異なるメーカーの機器間での相互接続性を確保し、データ管理を効率化する点で高く評価されています。
しかしその一方で、規格自体の複雑さから生じる技術的な課題や、セキュリティ、データ管理といった実運用面で考慮すべき点も存在します。
ここでは、DICOMが持つ利点と直面している課題の両側面を整理します。


DICOMのメリット

DICOM規格の採用による主な利点は、医療情報連携の基盤を構築する点にあります。
最大のメリットは、異なるメーカーの医療機器やシステム間でのデータ交換を可能にする「相互接続性」の確保です。
これにより、医療機関は最適な機器を自由に選択し、組み合わせられます。
また、画像フォーマットや付帯情報の構造が「標準化」されることで、データの解釈が統一され、情報の信頼性が高まります。
さらに、規定された通信プロトコルを用いることでデータの安全な転送が保証され、PACSなどによる効率的な一元管理が実現します。
これらの利点が連携し、医療情報の統合的な活用を促進しています。



技術的な課題

DICOM規格は医療情報の標準化に大きく貢献した一方で、いくつかの技術的な課題も抱えています。
規格の仕様は非常に広範で複雑なため、開発者がすべての機能を正確に実装するには高度な専門知識が要求されます。
また、医療技術の進歩に伴い規格は定期的に改訂されており、システムは新しいバージョンや機能拡張に継続的に対応していく必要があります。
さらに、DICOMは元来、医用画像データを主眼に策定された規格であるため、心電図などの波形データやゲノム情報といった他の医療データとのシームレスな統合には、HL7FHIRなど別の標準規格との連携を考慮したシステム設計が求められます。


運用上の課題

DICOM規格を実際に運用する際には、技術的な側面とは別にいくつかの課題が存在します。
最も重要なのが、データのセキュリティ管理です。
DICOM通信はネットワークを介して機微な個人情報を扱うため、不正アクセスや情報漏洩を防ぐための厳格なセキュリティ対策が不可欠です。
また、規格で互換性が保証されていても、メーカーごとの解釈の差異や実装の詳細な違いによって、まれに接続に問題が生じるケースがあります。
さらに、近年の医療画像は高精細化・大容量化が進んでおり、増え続けるデータを長期的に保管し、かつ迅速にアクセスできる状態を維持するためのストレージ管理やバックアップ体制の構築は、運用上の大きな負担となり得ます。



まとめ

DICOM規格は、医用画像の標準として世界中の医療機関で採用され、現代の医療情報システムにおいて不可欠な基盤技術となっています。
この規格がもたらす相互運用性は、診断の効率化や医療の質の向上に大きく貢献してきました。
本章では、DICOM規格の重要性を再確認するとともに、今後の技術革新の中でこの規格がどのように進化していくか、その展望について解説します。


DICOM規格の重要性

DICOM規格の重要性は、異なるメーカーの医療機器やシステムが生成する多様なデータを、統一された形式で安全に交換・管理できる点に集約されます。
この相互運用性の確保により、特定のベンダーに依存しない柔軟なシステム構築が可能となり、医療現場におけるワークフローが大幅に改善されました。
診断業務の効率化はもちろん、チーム医療における円滑な情報共有や遠隔医療の実現にも貢献しています。
DICOMは単なる技術的な規約ではなく、医療情報の円滑な流通を支える社会的なインフラとして機能しており、データの標準化はAIによる画像解析といった新たな技術活用の土台にもなっています。


ISBのDICOM対応ソフトウェア開発の強み

ISBが提供するDICOM対応ソフトウェア開発の強みは、単に規格に準拠したシステムを構築するだけではありません。40年以上にわたる医療分野での開発実績に裏打ちされた総合力にあります。

■医療情報システムとの統合経験
PACS、RIS(放射線情報システム)、電子カルテとの連携を数多く実現。

装置組込みソフトウェアの開発力
CTやMRIなどの制御ソフトからユーザーインターフェースまで幅広く対応。

国際規格への知見
DICOMはもちろん、IHE(Integrating the Healthcare Enterprise)やHL7といった規格との相互運用にも精通。

品質・安全性への徹底対応
医療機器ソフトウェアの開発では、国際的に広く採用されているIEC62304(医療機器ソフトウェアライフサイクル規格)に準拠したプロセスでの開発実績を有しています。これにより、安全性や信頼性を重視した開発体制を構築し、医療現場で求められる高品質なソフトウェアを提供しています。


今後の展望

DICOM規格は、医療技術の進化と共に今後も発展を続けます。
近年では、医療画像をクラウド上で共有・解析するケースが増えています。また、AIを用いた自動診断支援システムも急速に発展しています。こうした新しい動きにおいても、DICOMは基盤技術として大きな役割を果たします。

クラウドPACS:院外からでも安全に画像参照が可能に。

AI解析:標準化データを活用した腫瘍検出や画像分類。

■遠隔医療:地域や国を越えた医療連携。

ISBはこれらの新潮流に対応するソリューション開発にも積極的に取り組んでいます。
DICOMは医療画像の国際標準規格として、現代医療の基盤を支える存在です。ISBは40年以上の経験と豊富な知見を活かし、医療現場のニーズに応えるソフトウェア開発を提供しています。

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